プロレスに学ぶ「悪役」の美学! 嫌われてチームをもり立てる3つのポイント

プロレスに学ぶ「悪役」の美学! 嫌われてチームをもり立てる3つのポイント
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学校では怖い先生、部活の厳しい先輩、会社でも口うるさい先輩や、数字にシビアな上司――どんなコミュニティでも、メンバーに厳しく接する人がいます。

必ずしも全員から愛される存在ではないけれど、チームを引き締めるためには欠かせない役割。ことにビジネスシーンでは、社内でも、外部を巻き込んだプロジェクトでも、そんな「悪役」がとても重要な役割を果たします。

ビジネスにおける「チームの悪役」とはどんな存在であるべきか? 難しいテーマを前に、取材に伺ったのは…。

迫力の路面電車プロレスを体験して見えたこと

2024年2月23日、愛知県豊橋市で開催された「路面電車プロレス」。学生プロレスのスターたちが、市内を走る路面電車の車内で熱戦を繰り広げました。

男女レスラーが入り乱れて、チョップやラリアット、キックの応酬。肉体と肉体がぶつかり合うたびに「バチーン」「ドスン」と、生々しい音が狭い車内に響きわたります。大迫力のプロレス技を、観客がいる座席の目の前で、「安全に」披露してくれました。

そこで感じたことは、際立ったキャラクターのおもしろさと、その調和です。

中心となり観客を盛り上げるベビーフェイス(善玉)、

見上げるような巨体のパワーファイター、

華やかな見た目と対象的に激しい女子レスラー、

缶ビールを飲みながらゆうゆうと現れるヒール(悪役)…。

それぞれが個性を発揮し、周りがそれを見事に活かすという構造。これって、ビジネスのチームでも、大事なことだと思いませんか?

そして、やはり悪役、憎まれ役がいてこそ、場が盛り上がり、全員のパフォーマンスが上がります。悪役はチームのために働いていることを実感したのです。

後日、「市電プロレス」を主催した愛知大学プロレス同好会の代表であり、試合に勝利したルノワール・コメダさんに、取材をお願いしました。


悪役の四大条件

長きに渡るプロレスファンで、学生レスラーもたくさん見てきたルノワールさん。自身は正統派のレスラーですが、悪役についても強い思いがあります。理想の悪役像と、そのための素養を聞きました。


中央でチャンピオンベルトを抱くルノワールさん

1.プロレスを知らなきゃできない

ルノワールさんが再三強調するのは「悪役の難しさ」です。実はそのために、学生プロレスには悪役レスラーが少ないと言います。「ヒール(悪役)が完璧にできたら、それだけでプロになれる」というほど。

ただ、プロレスを知れば知るほど、「一度は悪役をやってみたい」と思うものだそう。

悪役はいわば引き立て役です。汚い手をつかったり、反則技を仕掛けたりして、自分が嫌われれば嫌われるほど、対戦相手への好感が集まり、試合が盛り上がります。

 

実は場の空気をコントロールしているのは、悪役なんです。

プロレスを見たことのある人なら、悪役が凶器を持ち出したり、場外乱闘を仕掛けることで、試合の流れが変わることをご存知でしょう。

だからこそ悪役は難しいし、観客のことも、相手レスラーのことも、よく理解していなければ立ち回ることはできないのです。

2.いい人じゃなきゃできない

レスラー仲間では尊敬される優れた悪役も、一般的に観客からは嫌われます。試合で罵声を浴びせられることも、もしかしたら、私生活で嫌な思いをするかもしれません。

さすがに学生プロレスでそこまではありませんが(悪役にも観客の目は温かい)、「悪役はいい人でなければできない(ルノワールさん)」というのが、プロレスのツボ。デストロイヤー選手、アブドラ・ザ・ブッチャー選手、ダンプ松本選手など、往年の悪役には、たいてい「実はいい人伝説」が残されています。


「いい人」には、自分が嫌われても善玉を引き立て、観客を盛り上げるという「自己犠牲」と、もうひとつの意味があります。

「ルールを逸脱しない」ということです。しかも、暗黙のルールだったりするので、高度なスキルが要求されます。

昭和の時代の悪役は、凶器を持ち出して、相手を流血させることもありました。けれど、選手生命を脅かすような重傷を負わせてはいけません。現代のレスラーならなおさらで、悪役にもコンプライアンス(?)が要求されます。

そもそも、本当にルール関係なしのレスラーは、他から相手にされません。悪役としても、成立しなくなってしまいます。

3.狂気がなければできない

と、ここまで悪役の意外な面をお伝えしてきましたが、はじめからいい人だと思われては、これもまた悪役は務まりません。

パイプ椅子を振り回す悪役レスラーが、「本当に相手の頭をかち割ってしまうのではないか…」と、どこかで「信じて」もらえなければプロレスにならないと、ルノワールさんは指摘します。

そのためには、肉体やパフォーマンスもさることながら、観客を恐れさせる内面的な何かが必要。行動としては決して常識を逸脱せず、けれども常軌を逸した部分を持っている人が、悪役として活躍できるのです。

4.代わりゆく悪役像

最後にもうひとつ、ルノワールさんは実におもしろい指摘をしてくれました。

「蝶野正洋選手は、悪役像を変えた」と言います。それまでの悪役は、ここまで述べてきたように、あの手この手で善玉を苦しめる、嫌われ者でした。

蝶野選手も反体制の立場をとり、反則も汚い技も使うのですが、人気も高いレスラーです。「黒のカリスマ」の異名のとおり、全身黒ずくめのスタイルもかっこいい!

怖いけれど憧れの対象になる、「ダークヒーロー」としての悪役が、定着していきました。

これは、時代とともに悪役ができることが、限られてきたことが影響しているのかもしれません。昭和の時代には、フォークを相手の頭に突き刺す、なんでファイトも許容されていましたが、前述のようにプロレス界も時代とともに、コンプライアンスが厳しくなっています。

だから、従来にないタイプの悪役像がうまれてきた、という仮説は、このあと解説する「ビジネスチームの悪役」にも、つながります。



ビジネスチームの悪役になるための三カ条

さて、プロレスの悪役を参考に、職場やプロジェクトといった、ビジネスのチームで立派な悪役になれるよう考えるのが、本企画の趣旨。結論から言えば、次の3つが、チームの悪役になるポイントです。


一、人と仕事をよく見る

レスラーと同様に、メンバーのキャラクターを活かし、チームとしてパフォーマンスを上げるのが、ビジネスにおける悪役です。そのために、厳しく接したり、耳障りの良くないことを言って、チームを引き締めなければいけません。

悪役レスラーは、対戦相手のやりたいことや観客のテンションを良く理解して、場の空気を作ります。同じように、ビジネスでもメンバーの個性、仕事の流れなど、全体像を誰よりも理解し、メンバーを引き立てるのが悪役の役割。

ただプレッシャーをかけたり、好き勝手に振る舞うだけでは、真の悪役とは言えません!

一、悪役は演技と割り切る

そうはいっても、人から怖がられたり、疎まれたりしたら、誰でも良い気分はしないですよね。そこを耐えて(気にせず)、むしろ楽しんでしまうのが、悪役の重要な素養です。

 

悪役は「悪人」ではなく、あくまで役割のひとつ。レスラーになった気分で、悪役を演じてみてはいかがでしょうか。上記で紹介したレジェンドの他、イービル選手、邪道選手、外道選手、女子では刀羅ナツコ選手、スターライト・キッド選手など、たくさんの悪役レスラーが現役で活躍しています。ぜひ、試合をチェックしてみてください。


また、嫌われ者一辺倒でないダークヒーローも、現代の悪役の特徴。コンプライアンスが厳しい昨今、チームの引き締めも、やりすぎるとパワハラとされるリスクもあります。オンでは厳しくても、オフでは弱みを見せて、うまくコミュニケーションをとるのも良いかもしれません。

一、上司の代弁者にならない

本当はいい人だけれど、周りを安心させてしまっては、役割を果たせないのが悪役の難しいところ。レスラー同様に、ビジネスでも「この人は恐ろしい…」と、どこかで思ってもらえなければ、良い悪役にはなれません。

 

突き詰めれば悪役を演じるのは、会社の業績を上げるためかもしれませんが、会社の枠に収まって、上意下達に徹している人が恐ろしいと思われるでしょうか? 

自分の言葉で語り、ときには上司に噛みついても会社を変えていくような迫力を持った人こそ、良い意味で周囲を恐がらせる力があるはず。その結果、メンバーのキャラクターを引き立て、活躍を助けることができるのです。



仕事を覚えたら…「ヒールターン」のススメ

人と仕事をよく知り、損な役回りを楽しみ、型にはまらず、迫力を持ってビジネスを進めていく。こう見てみると、チームの悪役を演じることは、個人のキャリアのなかでも貴重な経験になるのではないでしょうか。

プロレスでは、レスラーが悪役(ヒール)に転向することを、「ヒールターン」と言います。若いビジネスパーソンのみなさんも、5年以上キャリアを積み、仕事を覚えたタイミングで、ヒールターンに挑戦してみてはどうでしょう?

挑戦するプロセスの中で、自然とスキルが磨かれ、新しい自分の姿が見えてきます。