
飲食店で街を元気にする!少年時代にさかのぼる「巻き込む」ワークスタイルとは?

飲食店で街を元気にする!少年時代にさかのぼる「巻き込む」ワークスタイルとは?
新潟県柏崎市の大人気レストラン「kitchen105」でオーナーシェフとして活躍する西村遼平さん。ケータリングも大評判で、絶品の料理とホスピタリティ溢れるコミュニケーションで、心地よい場をつくってくれるので、コラボスタイルでも定期的にお願いしています。
西村さんは同店のほか3店舗を経営し、飲食店団体の役員やまちづくり、学校教育にも携わるなど多忙な日々を過ごしています。そのパワフルなワークスタイルを詳しく聞きました。
飲食店をはじめたきっかけは?
両親が柏崎の商店街で、飲食店を営んでいました。とはいえ、小さい頃から「大変な仕事だから、他にやりたいことを見つけなさい」と刷り込まれてきましたし、衰退する街で商売をする大変さを見てきたこともあり、「絶対やらないぞ」と思っていたのですが…。
考えが変わったのは、両親が店を閉めるというとき。ふと「父と母は、この後どこで働くのだろう」と考えたんです。2人が働く場をつくるつもりで、会社を継がせてもらいました。
もうひとつは、柏崎を元気な街にしたかったことです。夜遅くまで灯りがあって、カップルや友人同士、ちょっと暑苦しいおじさんたちなど、いろんな人が楽しめる街には飲食店が必要です。柏崎で育ったぼくだからできることではないかと。
大変だったこともあったのでは?
平日の昼間は会社員として働いていましたから、すごく大変でしたよ。
はじめは、お休みの店舗や営業後の飲食店をお借りして、料理を提供しました。今は一般的になった間借りの飲食店ですね。
それが、スタートから繁盛したんです。毎回満席でキャンセル待ち状態。ケータリングもはじめて、対応できる分は目いっぱい、半年先まで予約が入っていました。会社から帰って、仕込みから営業して、ろくに睡眠もとらず翌日は出社、という日々が、3〜4年続きました。
しかし、やりたいことに打ち込んでいるときは、苦労を苦労と思わないものですね。やらされてる仕事だったら、とっくに心が折れていたでしょう。
早期に会社員を辞めて、飲食一本でやるという選択はなかったのですか?
すでに結婚していましたし、柏崎で少し話題になったくらいで、お店を出すまでは踏み切れませんでしたね。数年かけて、ファンも、仲間も、お金も、ノウハウも、しっかりためてから、本格的に取り組もうと考えていました。
料理のスキルはどうやって身につけたのですか?
毎回のイベントであえて違うメニューを試すなど、やりながら工夫して覚えました。あちこちに食べに行ったりはしましたが、教えていただけるような人もいなかったので、自分たちで考えながらですね。
ケータリングのチームは、全員飲食未経験者で始めたんですよ。将来、飲食店を出したい人や、カメラマンやデザイナー志望の人もいました。各自が今後活躍していきたい分野でチャレンジをし、料理の撮影やロゴのデザインなど、経験を積んでもらったのです。
全員のモチベーションが高く、意見を出し合って、おしりを叩き合っていていた感じです。今では皆、それぞれのジャンルで活躍しています。
あえて初心者でチームを組んだ?
はい。プロのカメラマンやデザイナーは知り合いにたくさんいたのですが、0→1の体験を共有することが大切だと思ったのです。活躍の場を欲している人たちに声をかけて、高いモチベーションで賛同してくれた人たちが集結しました。
ゼロからはじめるような意識があった?
商店街の飲食店で、街の衰退を見ながら育ってきました。商店街は多くが自宅兼店舗ですから、店を閉めると住んでいる人たちもいなくなるんです。近所のお兄ちゃん、お姉ちゃんが急にいなくなる体験は、幼少のぼくにはすごくショッキングでした。
自分から何かしない限り、つらい未来が待っていそうだ、と気づくのが少し早かったのでしょう。受け入れて他所へ行くこともできましたが、ぼくはそんな未来に抗いたいと思いました。
中学生のころ、「街に元気がないのは、観光地がなく観光客が来ないからだ。ならばつくろう!」と思い立ちます。そして、道に生えているタンポポをそーっと運び、丘の上で綿毛を飛ばすという活動を始めるんです。一面黄色い山があれば、見物客がたくさんやって来るだろうと。
意味不明の行動ですが、友だちに説明すると「おもしろい!」と、一緒にタンポポを移植する仲間が増えていきました。結局、雑草として刈り取られてしまうのですが(笑)、このときにムーブメントの起こり、コミュニティの始まりを体験しました。自分が行動を起こせば、おもしろがって、巻き込まれてくれる人がいると、わかったのです。
今でも、何かコトを起こして自分の周りを楽しくしようと考えると、一人でニヤニヤしちゃいますね(笑)
やりたかったことは、どの程度できていますか?
1店舗で街を元気にするなんて夢みたいな話ですが、諦めてはいません。「kitchen 105」という店名は、旅先の部屋番号をイメージしています。柏崎を知っていただくきっかけとなり、旅人が立ち寄って荷物を降ろすような場所にしたいと考えています。
先日は、小学生以下の飲食代を無料にする取り組みをはじめました。当店があることで、家族で思い出を作るシーンを増やせたとしたら、大きな存在意義があります。今は一店舗ですが、賛同してくれるお店が増えて、「子どもの外食費がかからない街」になったらすばらしいですね。それがきっかけで、移住する人が増え、街がにぎやかになるかもしれない。
これがきっかけで、お金や食材の寄付をいただいたり、講演に呼んでいただく機会も増えました。あらためて、自分から動くことが大切なのだと実感しています。
日常のワークスタイルを教えてください
今までは本当にカオスなスケジュールです。
経営する4店舗やケータリングのほかに、企業やコミュニティの相談を受けたり、学校で教壇に立たせていただくことも。まちづくりの会議や経営者団体の会合なども含め、フィールドが増えています。現状は入ってきた順に予定を確保しているのですが、来年からは少し整理したいと思っています。
例えば、毎朝8時から1時間はミーティングに確保して、1回30分厳守と決めれば、毎日2つの話し合いができますよね。タスクをコントロールして、スケジュールの余白を作っていきたいと思っています。
物理的な移動範囲は?
県外では、名古屋に伺う機会が多いのと、東京にもよく呼んでいただきます。コラボスタイルさんにはお抱え的に、イベントのたびに呼んでいただけますが、何社かそういうお客様があれば、料理人はそれだけで食べていけます。すごく可能性がある働き方なので、他の人にも再現可能なくらい、スタイルを確立していきたいですね。
仕事に全力を尽くすうえで家族の存在は大きいですか?
とても大きいです。
ケータリングの出張や、会議や会食など、本来いるべき時間に、家にいられないことが少なくありません。子どもと過ごすはずの時間を、仕事に割いている。そのことを忘れないために、長男の怪獣のおもちゃをポケットに持って、仕事場に入るんです。
がんばっている姿を家族が信じていると思えば、もう一歩も二歩も踏み出せます。商談で緊張して自分が出せない、会議で言いたいことが言えない、といったことがあってはいけない。それを自分に言い聞かせるためのアイテムなんです。
それに、万が一事故などに巻き込まれた時、僕のポケットにおもちゃが入っていたら、妻は子どもに「お父さんはあなたたちを愛していた」と伝えてくれるでしょう。安心して、倒れるまで働けます。
貴重なプライベートの時間はどうしていますか?
どんなに忙しくても、朝ご飯を一緒に食べるというマイルールを設けています。新潟店を開けるときは柏崎から車で1時間半、雪道では2時間ぐらいかかりますが、毎日往復していましたね。
そのとき、その歳のこどもは、その瞬間にしかいません。忙しいからといって、「5歳をやりなおす」なんて、できないんです。だからこそ、一秒でも長く子どもといることは、強く意識しています。
子どもに働く姿を見せることも、大切にしています。学校教育に携わると、7〜8割の子どもが、大人になって働くことにネガティブであることがわかりました。それはそういう大人を見ているからだと考えています。
ぼくたち大人が仕事に情熱を燃やし、人生謳歌している姿を見せられたら、子どもたちは早く働きたいと思うはずですよね。ぼくは家族に対して、それを自分のいちばん大事な評価指標にしています。会社の成長や利益は大事ですが、「頑張ってるな」「かっこいいな」と家族に思われていないとしたら、働く意義はないですね。
仕事のやりがいはどんなところに感じますか?
先日、誰もが知る俳優さんが出演するドラマの撮影現場で、ケータリングを提供しました。3食を5日間、トータルで1000人分を超える量です。寝る暇もなく、終わったら体調を崩すほどでしたが、達成感は大きかったです。
部活のように泣けるほどうれしいこと、悔しいこと、大人になっても経験できるのは、とても幸運なことです。
それと、たくさんの飲食店があるなかで、「西村さんの料理がおいしい」「好きだ」と言っていただけるのは、シンプルにうれしいですね。直接言われるのもよいですが、「〇〇さんが褒めていたよ」と、周りからお聞きすると余計にしびれます。
ケータリングは、美味しいだけじゃなく雰囲気が違うな、と思っているのですが、それはなぜなのでしょう?
どうやったらより喜んでいただけるか、この会にはどういう形がいいのか、という思考は他の誰にも負けないと自負しています。会の趣旨に応じた提案や作り込みの質は高いと思います。でも、それは元々持っていたのではなく、真剣に悩んで獲得したものです。
例えば、初対面の方が集まり交流を広げる会なら、動き回っていろいろな人と話せる立席がいい。取り分けに時間がかかると、会話の邪魔をするのでピンチョスがいい。しかも、やわらかくて咀嚼の回数が少ないものがいい。あるいは、盛り上がっている会話の中には、あえて料理をお持ちして、お客様が動かずに済むようにするなど、現場の状況もよく見ています。
料理は、美味しいものを作って終わりではなく、他にもやれることが、すごくたくさんあると思うんです。深みをもって探求していきたいですね。
西村さんには、仕事をやらないという選択肢はあるのですか?
あまりに金額があわないときは、お断りすることもありますが、それ以外は基本的にやります。
自分ができる/できないに、判断軸を置かないことは、意識しています。できる範囲の仕事だけ受けていると、一生キャパシティは広がっていきませんよね。
努力してひとつの仕事に取り組んで、気に入ってもらえば次があるかもしれません。でも、断ってしまえばゼロのまま。ならば、大変そうでも、できるか不安でも、全力で取り組まさせていただいています。
仕事で大事にしていることは?
与えられた仕事を、もっと良くしようと考える人と、言われたことをただやる人だと、成長の幅は大きく違いますよね。ひとつひとつは小さな違いかもしれないけれど、時間が経つほど、大きな差になります。
思考し続けること、疑うことは、ぼく自身大事にしていますし、周りのみんなにもマインドを共有していきたいですね。
ときには立ち止まって、ハラオチするまで議論することも大事です。「あのときは納得していなかった」は、ないようにしたいです。
あとは、先輩の経営者を見てすごく思うのが、コミュニケーションの大事さです。滞ったとたんに、いろんなことが崩れるということを痛感しています。
凹んだり、やめたいと思うことはないのですか?
理不尽だな、と感じるときは、しっかり凹みますよ。
でも、結局は取るべき行動は2つしかないと思うんです。放りだして逃げるのか、チャンスかもしれないと思って一生懸命取り組むのか。放りだしたほうがよいこともあるかもしれませんが、1回は頑張ってみていいんじゃないかなと思いますね。
最後にワタシゴトの読者にアドバイスをお願いします。
「自分のフタ」を外してほしいですね。大体みんな自分の価値や可能性を、自分で決めてしまっていています。例えば木下さんに、ワタシゴトの編集として講演会をお願いするとして、講演料を「100万円」で打診されたら、腰が引けるのではないでしょうか。
でも、相手は100万円の価値があると思っているかもしれない。フタをしているのはいつも自分で、大体は低く見積もってしまうんですよ。自分の可能性を素通りせず、しっかりキャッチできるようなアンテナの張り方をしていただきたいと思います。
まとめの編集会議
木下:西村さんは、どんなハードワークもつらくないほど、やりたいことに打ち込んでいるのだと感じます。それほど没頭できるものを見つけるには、どうすればよいのでしょうか?
小越:西村さんの場合は、まず原体験ですよね。小さい頃から、活気をなくしていく商店街を目の当たりにしていたからこそ、「柏崎を元気する!」ことに情熱が持てたのでしょう。
木下さんにも、強烈な原体験があるのではないですか?
木下:コラボスタイルに入った時のことでしょうか。大学在学中に、別の会社に内定をいただいていたのですが、悩んだんですが4年生の冬に辞退しました。
働くことが、「楽しそう」だと思えなかったんですね。親に大学まで出してもらい、友人たちがスムーズに就職していく中で、自分だけワガママをしているようで、負い目に感じていました。
ところが、就活を再開してコラボスタイルの面接を受けると、当時の面接官が「自分の気持ちで判断して動いたことが、正解だと思うよ」と、言ってくれたんです。表情も話し方もごく自然で、一個人として対話してくれたことがうれしかった。「この人と働きたい」と思ったことを覚えています。
小越:貴重な体験ですね。そのときにこだわった「仕事を楽しく」が、木下さんのやりたいことの種なのかもしれません。
木下:私の軸になっていますね。とはいえ最初は、仕事を辞めたくて仕方なかったんです。営業に配属されたものの、毎月目標は未達成。
でも、会社の人たちは好きでした。会社にいたいので仕事が楽しくなるようがんばった、という順番です。すると、一年目の終わりくらいから、達成できるようになりました。
小越:おー。成功体験、大事ですね。西村さんも、人に喜んでもらえるから、続けられるところはあったんじゃないでしょうか。やっているうちに、仲間も、期待してくれる人も増えていって、やりたいことが大きくなったり、強固になったり。
そのためには、何はともあれ行動することでしょう。西村さんも、前回お話を伺ったコジロウさんもおっしゃっていましたね。
木下:気持ちがふつふつとしていた一方で、やっぱり土日はしっかり休んで、たっぷり寝たいときもあります!
小越:笑。全員が西村さんのような起業家になる必要はないですよね。一方で、経験を重ねるうちに原体験がよみがえり、背負いたいものが増え、気づいたら社長になってる! なんてことが、あるかも!?